アメリカではエンロン事件、日本ではカネボウ事件が起こり、「厳格監査」が強く叫ばれるようになりました。法改正が行われ、品質管理に走ったこの10年は公認会計士業界に何をもたらしたのでしょうか。企業と監査法人の間で業界の変化を見てきた会計専門家たちが、今後の監査法人の変化を予測しました。
平林
前回は、IFRS時代には企業経営の環境が大きく変わるというお話をしました。今回は監査法人の環境の変化を考えてみたいと思います。
吉成
まず予想される混乱みたいなものを含めて、みんなで出してみましょうか。
畑下
実務指針さえ役に立たない時代がくるわけですから、そこの部分でものすごく混乱が起こると思います。
金子
いままではグローバルなマニュアルも含めた絶対的な“模範解答”があって、「ここに書いてありますから」ということでやってきていますからね。ところが、これからは、「概ね1年以内」とか「概ね3年以内」というようなことが基本的にはどこにも書かれていないし、仮に書かれていたとしても模範解答ではないという世界になるわけです。監査法人はこれからどうやって適切に判断するんでしょう。
吉成
自分の頭で考えて、自分の責任で判断するということです。だけど監査法人は厳格監査から10年、そういうことをやってきていないので難しいですね。よりどころがないので現場で判断がつかず、「あちらの会社では、こういうのがまかり通っている」などという情報が行き交うでしょう。それでどうなるかというと、監査法人ではごく一握りの、場合によっては一人か二人のエキスパートにすべての人がもたれかかるという事態が考えられます。判断の統一性の面では有効ですが、健全な会計実務の発展という面では、人が育たなくなってしまいますね。
平林
公認会計士の一人ひとりが判断をしないということですか。
吉成
判断が許されない、そのうちに判断する能力がない、となりかねません。「誰々さんがこう言っていたから」となりますね。
平林
それは監査法人のトップですか。
吉成
トップではないです。いわゆる専門的能力を持っている人。大手の監査法人には各分野の専門家が必ずいます。しかしどんなに優秀な人でもすべての現実の企業の環境やビジネス判断を直接見ることは物理的に出来ないわけですから、常にその人が正しい判断をすると期待することは合理的ではないでしょう。会計専門家として1万人以上の人材がいるにもかかわらず、そういう一部の人だけが判断をくだす状況になってしまったら非常に不健全ですよ。