吉成
日本は江戸時代から識字率が高く、もともと教育水準は高かったんです。敗戦後の復興も早く、年功序列、終身雇用で高度成長期を一気に突っ走ってきました。ところが、90年以降バブルが崩壊して、98年には長銀が破綻破たんした。このあたりで、日本企業を取り巻く環境は大きく変わりましたね。
金子
バブル崩壊までは、日本はキャッチアップ型の産業構造で良かったんです。低コスト、ハイクオリティで提供できる国はほかになかったので、作れば売れる時代でした。決められたことを忠実にこなす日本人の勤勉さが合っていたんですが、でも僕は子ども心にそれが不思議で、TVのサザエさんを見て「マスオさんはデスクに向かっているだけなのに、なんでお給料がもらえるの?」と親に聞いたことがあります(笑)
吉成
サラリーマンが親方日の丸の時代でしたからね。会社に勤めていればお金がもらえる、マスオさんモデルが通用したんです。でもバブルが崩壊し大手金融機関銀行が倒産して、それまで続いていたキャッチアップ型が通用しなくなりました。
金子
非連続性の時代に入ったんですよね。キャッチアップ型では中国に勝てませんから、日本は創造型にシフトしていかないといけないんです。でもそれに気づいていない会社が多いように思いますね。
吉成
創造型にシフトしなければいけないのですが、でも日本では、創造型の人材を育成する教育はほとんどされていませんよね。ここでは学校教育はおいておきますが、企業の社員教育ではどうでしょうか。
金子
企業の教育のスタンスはあまり変わらないように感じます。予算ありきで考えるところが多いですよね。
平林
それは感じますね。予算があるときはすごく研修があるのに、次の年はぱったりとか(笑)。ただ最近、新入社員や女性、一般職員に向けての研修が増えているように感じます。
吉成
その背景には何があるんでしょう。
平林
ただ単にデータを入力するという「作業」をしているだけでは駄目、ということのようです。会計の基本や財務について根本から理解して欲しいという、企業のニーズが強くなっているんだと思います。たとえば倒産しかけた経験のある会社は、全社員が危機感を共有していますから、「新入社員のときからお金がどうなっているのか、なぜ儲けなきゃいけないのかを決算書で叩き込んでくれ」といった要望が強く出てきます。
吉成
確かに危機を経験した会社は変わりますよね。しかし相変わらず、何か面白いアプローチで学ばせる研修を考えてくれないか、というリクエストも多いです(笑)。そう言われると、我々も受講者にうける研修を考えますが、でも私が思うのは、企業側はどういう人材が必要なのかもっと議論すべきではないかということです。研修依頼のときにトップの意思を感じることはありますか。
金子
私はトップの意思を感じたことは一度もないですね。
河合
僕は、数は少ないけれどもあります。
吉成
それはどういう企業でしょう。
河合
経営者が、「人」が付加価値の源泉だと信じている会社です。よく「人材」は「人財」だと言いますが、口で言うだけじゃなくて本気でそう思っている会社は、人事のシステムや教育プログラムを作るプロジェクトメンバーに必ず経営者が入っています。
吉成
私の経験でも、経営トップが自ら会計の研修を受けて、「これを管理職全員に受けさせよう」と決めた会社があります。そういうトップの意思が研修に反映される会社は、結果として業績もいいですよね。だけど、数は少ない。なぜなんでしょう。
金子
昔から企業はOJTをやっていますが、あれは自然成長的な教育システムで、全体の成長スピードから抜きん出ることはできないんですよね。でも組織はそれでいいと思っているところがあるんじゃないでしょうか。
河合
おっしゃる通りで、トップの方が「学びというのは現場で学ぶものであって、先生の話を聞いても学びにはならない」と本当は思っているんです。だから多くの会社は経営陣が口では研修をやれと言っても、実はOff JTにコミットしていないんですね。